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zoom RSS 愛だけが聞こえる(6)

<<   作成日時 : 2008/05/08 14:57   >>

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 セシリアは唇を尖らせ、つんとそっぽを向いた。それからふっと、ちょっぴりもの思わしげな横顔になる。そんな何気ない仕草がいちいち可愛らしく、拗ねてみせるのも実際にがっかりしているからだとわかってしまうので、わたしの心臓は抑えようもなく早鐘を打つ。あの頃彼女は、まだ知らなかったのだ。こんなふうに身を預けて警戒もしないこと、不意打ちのキス、当たり前のように心を許した表情を見せる気安さが、わたしの胸にどんな炎を掻き立てるか・・・。長い髪に指を絡めたのもだから、手管でないぶん悩ましい衣擦れの音や、柔らかみを増した彼女の体の線から意識を反らしたくて。しばらくその手触りを確かめてから口許へ近づけ、わたしは恭しく唇を押し当てた。
「そんな事ないよ。トンボは一瞬だけど、ほんとに喋ったんじゃないかと思った。意地悪な魔術師や囚われの恋人、虹を通り抜けてきた話も危うく信じそうになったし。あれはどうやったんだい、セシー?トンボの声はきみが潜んでいたのと、反対側から聞こえたけど」
 セシリアはすぐには答えず、わたしの胸に頬を埋めたままじっとしていた。首を傾げて覗くと、瞑想でもするように瞼を閉じている。口許には淡い微笑み。

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「・・・心臓がドキドキ云ってるわ」どこか嬉しそうな声で、彼女は呟いた。
「うん。体温も少し、上がっているかな」わたしはかすかに震える息を洩らす。
「ううん、ちょうどいいわ。わたしはアルフレッドの温もりが好き。落ち着いた声や、柔らかな話し方も。・・・ねえ、答えが知りたい?ほんとに全然、見当もつかないの?」
 わたしは喜んで降参すると云った。教えてくれないと好奇心ではち切れそうだ。息が詰まって苦しい、助けてくれと両手で首を押さえ、ううっと呻き声すら洩らした。
「まあ大変!ちゃんと教えるわ、何でも白状するから死なないで。アルフレッド!」
 慌ててがばっと身を起こし、セシリアも真剣そのものの口調で叫んだ。両手でわたしの手を取って引き寄せると、心配で堪らないように見つめ・・・そうする事だけが蘇生させる術だというように、指といわず手の甲といわずキスの雨を降らせる。わたしは薄目を開けたまま動かずにいたが、どうにもくすぐったくて口許がピクピクと引きつり、まだ死にそうにない事を露呈してしまった。彼女と比べればヘボ役者もいいところで、大抵は堪え切れずに笑い出してしまうのだ。

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