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zoom RSS 愛だけが聞こえる(16)

<<   作成日時 : 2008/09/04 14:35   >>

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「いいわね、アルフレッド。公爵さまにお会いしたら、きちんとご挨拶する事はもちろん、必ず「ご厚情に感謝しています」と申し上げるのよ。一人息子のあなたを館に引き取って、立派な教育を受けさせようと申し出て下さったのも、父さんが公爵さまをお守りするために命を落としたからだけど・・・それは護衛隊長として当然の務めであって、本来公爵さまがわたしたちに、どんな義務を負うような事でもないの」
 出かける前に母は、わたしの手を取ってそう云い聞かせた。哀しげな眼差しに心痛の色が宿り、その手は胸苦しくなるほど冷たかった。そうでなくても痩せた体と繊細な母の心とは、愛する夫を喪った悲嘆に手酷く打ちのめされ、今にも切れてしまいそうに張り詰めていたのだ。

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「幼くてもあなたは頭のいい子、母さんの云う事がわかるわね?どうかこれだけは覚えておいて。どれほど親しい間柄になったとしても、身分の垣根というものを越える事はできないの。名誉の出世といえ、公爵さまの護衛隊長に任じられた事で、平民出の父さんがどんな苦労を強いられたか・・・。あなたにこんな事を云うのは辛いけど、だから決して勘違いしないようにするのよ。アルフレッド。公爵さまへの感謝の気持ちを忘れず、ご期待に副えるよう人一倍努力なさい。お嬢さまにも心から尽くして差し上げてね。そうすればきっと可愛がって頂けるわ」
 透き通るように青ざめた頬にはらはらと涙をこぼし、母はわたしの体を痛いほど抱きしめて、繰り返し愛しげにキスしてくれた。家の前には公爵家から遣わされた迎えの馬車が待っていて、わたしは乗り込む前に一度だけ、その懐かしい家を振り返った。セシリアとともにウルジーの館へ移って以来、あの家に戻る事は二度となかったし、その後の人生でもわたしは、ついぞ自分の家と呼べるものを持たなかった気がする。

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