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zoom RSS 愛だけが聞こえる(18)

<<   作成日時 : 2008/10/07 00:11   >>

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「そなたがヒューバート・ブライアンの息子か」
 それが書斎の隣りにある一室で対面したとき、ゾーイ公爵が口にした最初の言葉だった。その一言にこもる苦く熱い相克の響きと、密度さえ感じられそうな、不安を誘わずにいない沈黙。じっと注がれる視線を痛いほど全身に感じて、わたしはためらいながらも、お辞儀のために落としていた目を、疵もなければ汚れ一つない公爵の靴から上げた。
セシリアの父親であり、わたしの父が護衛隊長として仕えたマクシミリアン・ゾーイ公爵は当時五十歳、秀でた額と雄弁そうな口に、鋼を思わせる鋭い目をした、気難しげな風貌の人物だった。半ば銀色になりかかった髪をきれいに後ろへ撫でつけ、口髭は品よく刈り揃えられて、血色のいい滑らかな肌をした顔の中で唯一、眉間に三本の深い縦皺が刻まれている。細身で背もさほど高くなかったが、全身から漲る活力と生来の威厳とは、子どもならずとも恐れずにいられないものがあった。

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「はい、公爵さま。二月ほど前九歳になりました。年齢よりずっとしっかりした子で、病気もほとんどした事はありませんが、わたくしどもの躾では何かと至らぬ点もあるかと存知ます。お手に委ねますゆえ、どうぞ宜しくお教え下さいませ。・・・アルフレッド、公爵さまにご挨拶を」
 母から促されてもう一度頭を下げ、わたしは喉がカラカラに渇くのを感じながらも、自分のような者を引き取って頂き、公爵さまのご厚情にはいくら感謝しても足りないこと、ご恩に報いられるよう一生懸命お仕えすることを、何とか無事に云い終えた。九歳の子どもなりに自分の置かれた立場を・・・どれほど心細さに震えようが、一人で立つしかない事をわかっていたのだと思う。おそらくは父の訃報を携えて、公爵家の使いが戸口に現れたあの瞬間から。

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