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zoom RSS 愛だけが聞こえる(30)

<<   作成日時 : 2009/03/07 20:39   >>

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 初めて見る父親の打ちひしがれた姿にどう声をかけていいかわからず、セシリアが小さな胸を痛めていると、背後から控えめなノックの音が聞こえた。現れたのは数人の小間使いで、それぞれ湯気の立つ陶器のポット、洗顔用のボウル、清潔なリネン類や着替えを手にしている。公爵は疲れた顔を上げ、令嬢の姿を認めて一瞬ハッとした女たちに、静かだが少しも動揺を感じさせない声で指示した。
「ここはよい。棺の準備ができたら知らせるように」と。
 すぐ顔を拭えるようポットやボウル、リネン類を手近な小卓へ、着替えはベットの上に用意して、女たちはそよ風ほども静けさを乱さぬまま退出した。ゾーイ公爵はだが、再び娘と二人きりになってからもそれらに一瞥さえくれず、しばし押し黙った後、搾り出すように深い息を吐いた。

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 娘が隊長と交わした約束など知る由もなかったし、血痕というはっきりした証拠を見られては、到底隠し切れないと覚悟したのだろう。公爵は落ち着いて聞くよう念を押した上で、夜会の招待客に暗殺者が紛れ込んでいたこと、護衛隊長がその襲撃を食い止めて亡くなり、他にも数名が重傷を負ったことを務めて淡々と話した。セシリアはそれを聞きながら、心臓をぎゅっと掴まれたような痛みと、体中から血の気が引いていくのを感じたと云う。さらに負傷者は動かせないので大臣邸に預けてきたが、できる限り尊厳を損なわない姿で家族のもとへ返すため、隊長の亡骸は館に運び込んであると話す父親の姿が、ぐらぐらと揺れ始めてよく見えなくなった。激しい痙攣とともに気道が塞がり、喘息の発作に襲われたのは、ああ・・・わたし、倒れそうなんだわと気づいた瞬間だった。

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