天使のたまご

アクセスカウンタ

zoom RSS 愛だけが聞こえる(37)

<<   作成日時 : 2009/06/03 23:26   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

 
「ありがとうございます、お嬢さま」母も涙声で云った。
「お嬢さまはこの子に、一番必要なものを与えて下さいました。父親を亡くして以来、息子が泣いたのはこれが初めてなんです。夫から出がけにいつも、留守中は母さんを頼むと云われていて・・・アルフレッドはその約束を、大切に守ってきたものですから・・・。この子が聞いた最後の言葉でもありますし、たぶんそれで、遺言のように思っていたのかも知れません。おかげでわたしも、心残りなく息子をお預けして帰れます。夫のためにわたしたちを守りたいと云って下さって、どんなに救われる心地がしたことか・・・。お気持ちはきっと、夫にも伝わりましたわ」
「・・・ほんとう?」

画像

 母の声があまり優しく胸に沁み入ったからだろう。セシリアは小さく啜り上げると、もう片方の手も添えて、胸もとに置いたわたしの手を痛いほど握り締めた。もしかしたら彼女は、物心もつかぬうちに亡くした母親のおぼろげな面影を、わたしの母に重ねていたのかも知れない。わたしの額にそっと唇を押し当て、頬を寄せて、涙が自然に止まるまで待っていてくれた母。言葉にならない想いをそれぞれの胸に噛み締め、公爵と令嬢も沈黙している。それは決して、不安や気詰まりを誘う沈黙ではなかった。むしろ何だか、父親を亡くした子どもならどれだけ無様に泣いたっていい、洟が垂れて涙と混じり合おうが、しゃくり上げる声が窒息寸前の蛙みたいだろうが構わないんだと許されているようで・・・わたしは少しずつだが落ち着きを取り戻し、狂おしい喘ぎや痙攣のように襲う震えもようやく間遠になっていった。
「ねえ、お父さま。誰もいない家に一人で帰らなきゃいけないなんて、そんなの・・・そんなのやっぱり淋し過ぎるわ。小母さまがここで、アルフレッドと一緒に暮らせるようにはしてあげられないの?」
 我慢しきれなくなったように傍らの父親を見上げ、セシリアがそう訴えたのは、わたしが拳でごしごしと目を擦り、濡れた頬を乱暴に拭っていたときだ。涙はほとんど止まっていたが、さぞひどい顔をしているだろうと思うと、恥ずかしくてなかなか頭を上げられなかった。

愛だけが聞こえる(38)へ ☆ ☆ ☆ →愛だけが聞こえる(36)


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
愛だけが聞こえる(37) 天使のたまご/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる