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zoom RSS マラメアの海賊・その100

<<   作成日時 : 2009/06/11 11:44   >>

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「わたしはバド・キュレグの過去を、今度こそはっきりと見たのです、ブラッドショー長官。ただ一度近づいたときは、その影しか感じ取る事のできなかった・・・記憶の奥底に封じ込められて、正体を見極められずにいたもの。あの男の唯一の恐怖です」
「おいおい。まさかそれが、この俺だって云うんじゃあるまいな?仕事柄物騒な連中にも関わってきたが、そんな奴と出くわした覚えはないぞ。断言してもいい」
 ふざけた調子で云いながら、顔の前で左右に手を振る。彼は三つめのクッキーを頬張り、一個を部下の手に押し付けた。メドックは甘いものが大の苦手だ。じっと睨まれて仕方なく受け取る。
「ええ、そんな筈はありません。あの男が自らの恐怖と出逢ったのは、そう・・・今から二十数年も前の事です。ほんの幼児の頃の。わたしの見た影がもしあなただとしたら、その間一歳も年を取らなかった事になる。だから混乱しているのです」
「へえ、ほう?・・・ふぅん」興味深いのか何なのか、デーモンが妙な相槌を打つ。
「俺と同じ顔で且つ、二十数年前に今の俺ぐらいの年だった男ね。メドック、おまえどう思うよ?物ぐさせずに少しは口を開け」
「しかしヨギ・ベラ殿には、あなたの顔が見えないはず・・・」
「バカだね、おまえも。現在ってのは次の瞬間、過去になるだろが」
「ああ、なるほど。あなたと同じ顔・・・ゾーイ公爵ですか」
「ゾーイ公爵?アブドゥラ皇太子の宰相で、切れ者と評判の?」
 アルフレッド・ゾーイ公爵。気難しい事で恐れられる皇太子からもっとも信任され、失脚を狙う政敵でさえその人徳を認め、周辺各国の外交官には、誰より手強い交渉相手として知られる人物だ。占い師の意外そうな声に、デーモンはにやりとした。
「ああ、おそらく俺の親父だよ。同じ顔でも中身が違えば、あちらは高徳の士、こちらは軽薄な女好きと・・・受ける印象はずいぶん違うが。二十数年前ならまだ戦場にいた筈だ。レイも舌を巻く剣の天才で、敵味方の別なく「ヘザヴィの鬼神」と恐れられ、人智を超えた逸話に事欠かなかったらしい。もっとも自慢話なんて、はしたない真似をする男じゃないからな。そのほとんどは当時を知る連中から聞いた話さ。『赤い蠍』とやらの唯一の恐怖だったとしても、あの爺いなら頷けるね」
 少しは愉しい展開になってきたじゃないか。彼の余裕の笑みはだが、何気なくヘススを見やって凍りついた。先読みはグラスの破片をポーチに置くと、両手で繰り返し一つの名を空間に描いたのだ。アスール、アスール、アスール・・・。メドックには手話がまるでわからない。従って長官の面になぜ、恐怖の色が浮かんだかも。
「そうじゃないかと、恐れていた・・・」

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