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zoom RSS 愛だけが聞こえる(38)

<<   作成日時 : 2009/06/16 13:09   >>

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「その話ならすでに説明した筈だ、聞いていなかったのかね?」
 途端に苛立ちを声に滲ませ、公爵が素っ気なく答えた。聞く者の胸に居たたまれない思いと困惑を掻き立てずにいない、あのせかせかした叱責するような口調だ。それが令嬢に対しても向けられたことにびっくりし、思わず面を上げて表情を窺うと、やはり例の不機嫌そうな皺が眉間に寄っている。娘を見るどこか落ち着かない、そのくせ射抜くように鋭い目つきが、口で云うほどもはっきりと・・・それはこの場に持ち出されたくない話なのだと、だから一切訊いてくれるなと伝えていた。女の子はだが、わたしの手を離すと父親に向き直り、上着の袖口を引っ張って、他の者なら充分きついと思われる眼光にも怯まず食い下がった。

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「ちゃんと覚えてるわ、お父さま。残された息子を養育するのはいい、しかし未亡人まで男やもめである自分の館に引き取ったら、世間の口さがない連中に格好の噂の種をばら撒くことになる・・・でしょう?だけどわたし、どうしてもわからないのよ。なぜ顔も知らない人たちを気にして、小母さまとアルフレッドが離れ離れに暮らさなきゃいけないの?ここは広過ぎるくらい広くて、使っていない部屋がたくさんあるし、お父さまなら二人が十人でも簡単に養ってあげられるのに・・・」
「いいかね、セシリア」ゾーイ公爵はふーっと溜息をついた。
 頭痛でもするように片手で額を押さえていたが、自分の云ったことを言葉遣いもそのまま持ち出されては、いっそ頭を抱えてしまいたい心境だったろう。そもそも幼い娘とこうした微妙な問題を話すこと自体、男親の手には余ることで・・・だからセシリアを納得させられなかったわけだが、大人ならそれだけ聞けば容易に察しがつく。わたしの肩に手を置いたまま、母がそっと椅子へ腰を下ろした。首だけ曲げてちらっと窺うと、身動き一つせず固い表情で視線を伏せている。務めて心を乱すまいとしていることがわかって、わたしもまた目を伏せた。

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