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zoom RSS マラメアの海賊・その101

<<   作成日時 : 2009/06/22 21:53   >>

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 デーモンは震えるような吐息を洩らした。それから手話で何事か尋ねたが、答えるヘススの手の動きときたら、稲妻が閃くかの凄まじい速さだ。読み取り切れず眉間に皺を寄せ、長官が慌てたように押し止める。滅多に見られない真剣な表情。
「もう少しゆっくり伝えてくれ、ヘスス。それじゃ何の事かわからない。いいか、ゆっ、くり、だ」
 自分の手も一つ一つはっきりと動かす。だが程度がわからないのか、先読みの手はほんの気休めにしか遅くならなかった。二度は同じ頼みをせず、デーモンが閃く手の動きに集中する。声に出す余裕などないのだろう。手話で尋ねてはヘススの手に見入り、また質問を繰り返して、しばらく沈黙の会話を続けた。メドックには長官の緊張した面から、話の容易ならぬ事が窺えるだけだ。
「我ながら破片とはよく云ったもんだ。一つ残らずこの脳ミソに叩き込んでおくよ、ヘスス。誰もが希望を見失ったとき、か・・・必ずそれを見出し、送り届けてやるとも。あの子は俺が、絶対に死なせない」最後にそれだけ口にすると、デーモンはドサッとベンチの背に凭れかかった。
 深い息を吐きながら、手のひらで疲労の色濃い面を撫でさする。先読みはやはりけろっとして、床に並べた破片の中から、気に入ったものを二つ、三つと懐ろへしまい込んだ。立ち上がってくるりと背を向け、身軽に通りへ飛び下りる。マントの裾を揺らしながら、そのまますたすたと歩き出す後ろ姿を、デーモンでさえ唖然と見送った。速い足取りで見る間に遠ざかっていくのを。
「ここにいる必要は、もはやなくなったという事です。長官」
 置き去りにされたヨギ・ベラが、弦の切れた竪琴を腕に抱え、苦笑しながら立ち上がる。ポーチの柱に立てかけた白い杖を手探りでつかんだとき、ヘススの姿はすでに、行き交う人影の中へ紛れ込んでいた。身を寄せているという鳥使いの宿があるのか、それとも単なる通り道に過ぎないのか。花街も場末の、怪しげな連れ込み宿や安酒場が建ち並び、街娼らがうろつくあたりへ。
「あの男がおまえなしで、人の役に立たぬという理由はわかった。俺はまた、ライ・ハーンとは違った考えだがな。・・・しかしおまえは?」
 長官の問いに振り返り、過読みは見えぬ目を開いた。メドックがぎょっとしたように息を呑む。ヨギ・ベラの瞳は真っ赤な血の色をしていた。
「アルビノ・・・」半ば独り言のようにデーモンが呟く。
「そうです。わたしの体には生まれつき、色素というものが欠けている。そのためかどうか、子どもの頃は病気ばかりしていました。人並みの健康を得たのはヘススと出逢い、過読みの能力に目覚めてからです。我々の運命は二つで一つ、彼が命を落とせば遠からず病の床につき、二度と起き上がれなくなるでしょう。だがヘススの障害を見抜いた知識といい、あなたの奥様は得難い名医のようだ。アルビノという先天性異常を知っている者は、医者の中にさえ多くありません」

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