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zoom RSS マラメアの海賊・その105

<<   作成日時 : 2009/08/13 15:38   >>

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 その日の昼下がり、洗濯物の翻る下で甲板に寝転がっていたサィードは、タラップがギシギシと軋む音に片目を開けた。重たげな袋を担いで現れたのは、だが、用事で街に出かけている仲間の誰でもなかった。そのくせ何の気兼ねもない足取りで近づき、抜けるような青空を背に彼を見下ろす。細かく編んだ長い髪がはらりと肩から落ち、眩しい陽射しがダイヤのイヤリングにきらめいた。日焼けした肌と引き締まった体つき、切れ上がった野性的な瞳に微笑の影。サィードがゆっくりと身を起こした。
「久しぶりだな。ザカリア船長は元気になったか?」
「おまえを懐かしく思うほど、久しぶりでもないな。おまえが出て行ってから、まだ一ヶ月と経っていない」むっつりと云って胡坐をかく。
 それに相手は、からからと心地よい笑い声を響かせた。
「船長ならこのところ毎日、午前と午後の二回、真面目に甲板や桟橋を散歩している。実際はもっと足を伸ばせるくらい、体力も回復してきたらしいが・・・レサスにいる間は療養に専念するって事で、船医と和解したからな。会いたいなら、船長室で食事中だ」
「わたしの顔を見ても驚かないんだな、サィード」
 面倒そうに船長室へ顎をしゃくってみせるのを、その人物は興味深げな目つきで見つめた。サィードがふんと、鼻先であしらう。
「何をしに現れたかはわかっている。・・・アスールならモナハンに連れられて、バザールへ買い付けに出かけた。云っとくがおまえの事なんか、これっぽちも思い出してないぞ」
「別に構わんさ。そこまでわたしは、感傷的じゃない」
 皮肉を込めたその答えに、サィードがムッとしたときだ。船長室の脇にある昇降階段から鼻歌が聞こえ、カシムが上機嫌で甲板へ上がってきた。シャツの裾をたくし上げて脇に挟み、ズボンの紐を解こうとしながら。その目がふと、サィードと一緒の人物へ止まり、見る見る真ん丸に見開いた。
「こりゃあ、おったまげた。・・・ベリルじゃねえか!」
 素っ頓狂な声を上げ、歓迎するように両腕を広げて駆け寄る。その手を彼女の肩に置くと、カシムは笑顔をほころばせてバンバン叩いた。ベリルの目はだが、半ばずり落ちたズボンの股間へ落ちている。
「おっと失礼。昼飯にちょいとばかり、仕入れた酒の味見をしたもんでな。正直にもよおしちまって。天気もいいこったし、甲板から放尿したらさぞ気分がよかろうと・・・」
 慌ててズボンの紐を締め、へらへら照れ笑いしながら頭を掻く。カシムはそれから、横目でちらっとサィードを見た。ベリルが去ったとき、彼はじきにまた顔を合わせると嘯いたのだ。

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