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zoom RSS マラメアの海賊・その110

<<   作成日時 : 2011/09/06 15:00   >>

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「ああ、これは関係ない。お袋の形見で、さらわれたとき身につけていたものだ。淫乱で身勝手な女だったが、家柄だけはよかった」
 イヤリングを指先で弾いてキラキラと光らせ、元海賊の女は薄く微笑んだ。おそらく家柄だけではあるまい。ベリルの切れるような美貌を眺め、ガレリは思った。彼女に引き継がれたその容姿のせいで、母親はヴァザラックに見初められ、略奪される羽目となったのだろう。
「アスールは法に触れない限り、好きにしていいと云った。だったらわたしは、『蒼龍』の船員として働く事を望む。他のどの船でもなく。それにはまず、親父の負債をきっちり片付けるべきだと思ってね」
「アスールが乗っているからか」と、ザカリア。
 ベリルはだが、魅惑的な笑みを滲ませただけだ。わざわざ云うまでもあるまいと、その不敵な眼差しが語っている。それを射抜くように見据えた船長の、身震いするほど冷徹な目の光。自分の何を見極めようとしているか、彼女はふいにわかった気がした。
「わたしにとっては一瞬一瞬がすべてだ、ザカリア船長。命を燃やす瞬間こそが。見返りなど望んでいないし、あの坊やがこれから先、どんなふうに変わっていこうと関係ない。ただ彼が信じるもののために、命を賭けてみるのも悪くないと思った。それだけの話だ。命まではともかく、信じてみたいと思う気持ちなら・・・あなたにもわかる筈だな?ガレリ副長」
 溜め込んだ財宝がどこかに眠っている可能性を、彼やモナハンが考えつかなかったとは思わない。他の船員の中にもいただろう。だが身代金を払える筈だと指摘して、アスールに恥じ入らせる者は誰一人いなかった。しばし黙考してから、ガレリがふっと苦笑した。
「我々のほうが正しかったと、果たして云えるかな?きみにまんまと逃げられて、結局は身代金など手に入らず・・・いつかどこかで、赤毛の女海賊の噂を聞く事になったかも知れない。それにアスールも、本当に無欲だったと云えるだろうか?「まっとうに生きろ」などと、生涯かけて果たさねばならぬ約束を、きみに押し付けたわけだからね。そう・・・確かに彼は、責任を取らなければならんな」どこか満足そうに云って、ちらっとザカリアを見やる。
 船長は厳しい顔で腕を組み、口許に拳をあてたままじっと考え込んでいた。
「扉の前で見張れ、ガレリ。万一にも立ち聞きする者がないように」
 理由を訊くような愚は犯さず、ガレリがすくっと立ち上がった。長身を寄せてそれとなく外の気配を窺い、ザカリアに頷いてみせる。船尾楼にある部屋の出入り口はそこだけで、甲板との仕切りが全面ガラス張りの格子窓になっているため、身を隠すとしたら扉の陰しかない。近づいてくる人影もすぐにわかる筈だ。何のための用心かと、ベリルが軽く眉をひそめた。

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