テーマ:金色の花びらが舞い散る下で

金色の花びらが舞い散る下で・27

「ごめんなさい。僕、偉そうな事なんか云うつもりじゃなかった。ただその、何だか悲しくなっちゃったんだ。ザカリア小父さんだってきっと、お母さんに会いたい筈なのに・・・なぜダメなんだろうと思ったら」 「しおらしく謝ったりするな。物分りのいいガキなんぞ俺は好かん」  払いのけるようにサッと、顔の前で腕を振りながら云う。ザカリアはその指を翻し…
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金色の花びらが舞い散る下で・26

 その代わり別の誰かが、命を落とす羽目になるだろうが。デーモンは胸の裡で呟いた。ふと視線を落とし、膝に抱いた愛娘が顎を反らして、じっと見上げている事に気づく。・・・この無垢な瞳、子どもたちの思いのほうが正しいんだけどな。どこか淋しげに微笑みかけると、彼はディーディの前髪の生え際を掻き上げ、可愛いおでこに柔らかくキスしてやった。 「それ…
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金色の花びらが舞い散る下で・25

「確かにおまえの云う通りだよ、ジョシュ。ザカリアなら首長の座を巡る争いに、決着がつけられるかも知れん。だがそうだな・・・全部はわからなくていいから、ちょっと難しい話をしようか。たとえ他の誰より、首長になる資格と実力があったとしてもだ、小父さんはもう十七年も故郷を離れてる。いきなり帰国したところで、ウィンダミアの人たちが果たして、はいそう…
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金色の花びらが舞い散る下で・24

「ああ、困ったな。おまえときたら、頭もとびきりよくて」  なぜか嬉しそうに笑み崩れ、デーモンは息子にチュッとキスした。ジョシュが何やら当惑した態で目を瞠る。意外な反応やキスには慣れっこでも(何しろ父はキス魔だった)、「困ったな」という一言が漠然とした不安を掻き立てたからだ。もしかして僕、何か子どもっぽい事を云ったかしら。 「それもエ…
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金色の花びらが舞い散る下で・23

「お母さんは重い病で動けない、だから小父さんが会いに行く。それって当たり前の事でしょう?最後かも知れないんだもの、誰だって会いたいよ。なのにどうして、ウィンダミアの人たちは信じてくれないの?なぜ首長になるためだと疑われて、小父さんのお母さんばかり、辛い思いをしなきゃいけないんだろう。そんなのおかしい、何だかすごく間違ってるよ」  息子…
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金色の花びらが舞い散る下で・22

「畏れ入った。さすがザカリア・ウィドロウを産んだ、剛毅な女性だけの事はあるね。それで?国に戻ろうなんて気は、間違っても起こすなと?」  手紙の内容を察して、デーモンがうっすらと笑った。口調こそ平静だが、ザカリアが不穏な心理状態にあるのは、一点を見据える剣呑な目つきからして明らかだ。火傷しそうに熱い彼の自尊心はひとまず置くとしても、ただ…
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金色の花びらが舞い散る下で・21

「お母さんが重い病気になったんだって」と、ジョシュ。 「おふくろさんが?」ちょっと意外そうに目を細める。  気丈なだけでなく肉体的にも頑健で、風邪一つ引いた事がないと聞いていたからだ。高い頬骨や頑丈に張った顎、碧の瞳、長身で逞しい体つきといった外見こそ父親譲りらしいが(赤みがかった灰色の髪だけは、母親の出身であるエサル族に多い特徴だ…
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金色の花びらが舞い散る下で・20

 恐れ知らずに這い回ってはぶつかったり転んだりする弟を、どんなにヒヤヒヤしながら追いかけたか知れない。寝かしつけようとベットで抱っこするうち、一緒に眠ってしまった事もある。それに小父さんだって気に入るくらいだもの、アスールには特別なところがあるんだ。もちろんあげたりはできないけど、もしかして・・・赤ちゃんのときと同じに無垢で可愛らしい寝…
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金色の花びらが舞い散る下で・19

 話の途切れた間隙にスウスウと、いかにも安らかな寝息が聞こえてきた。うつ伏せの姿勢がまずかったのか、それとも大きな体から伝わる温もりや、呼吸にゆったり上下する揺れが心地よかったのだろうか。二人が気づかぬうちに、アスールは小父のお腹の上でぐっすり寝入っていた。 「どうも大人しいと思ってりゃ、このチビは。いつ見ても犬っころみたいに駆け回る…
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金色の花びらが舞い散る下で・18

 ザカリアの兄には国に残って、母親が嫁いだ部族の長を継ぐ義務があった。その結果が何者かの手による暗殺だ。犯人は未だに知れず、故国を離れて十七年を経た今も、跡目争いの決着はついていない。ウィンダミア総首長の座は依然空席のまま、表向きは全部族長によって構成される「族長会議」が、国家としての意志を決定したものの・・・部族同士の利害が激しく対立…
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金色の花びらが舞い散る下で・17

「・・・何か悪い知らせ?国から届いたんでしょ?」  心配げに曇らせた面を、ザカリアが視線だけで見やった。 「なぜそう思う?チビの云う事を真に受けたのか」 「でもアスールには、淋しいのがわかるんだよ。だからいつもより、小父さんにベタベタするんだ。きっと。それに父さんも・・・ザカリア小父さんがキツいときは、瞳の碧が深くなるって。…
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金色の花びらが舞い散る下で・16

「ふん、本気で噛み付くとでも思ったか?」ザカリアがせせら笑う。  兄の両腕に後ろから抱えられ、アスールはぽかんとしたままだ。 「でも餌にしようと思ったでしょ?きれいな魚が釣れそうだって・・・」 「きれいな魚?一体何の話だ」  首の後ろに手をあてがって横たわり、ザカリアはうっすらと笑った。 「シギリヤさんの話だよ。とぼ…
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金色の花びらが舞い散る下で⑮

 アキテール市の東カナル地区は、街の中心から東南へ少し外れた運河の両側に広がっている。その東岸沿いが職工通りで、家具を作る木工職人や、馬具、蝋燭、革細工職人、鍛冶屋に加え、鍋釜等の台所用品を扱う店、パン屋、古着屋などが所狭しと並んでいた。そのどん詰まり、運河からはちょっと引っ込んだ坂の上に、ウォレル将軍の軍団長デーモン・ブラッドショーの…
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金色の花びらが舞い散る下で⑭

 ただ耐えるように表情を歪め、シギリヤは視線を逸らした。痛いのは顎に食い入る指先ではない、夫に投げつけられた無情な言葉でも。子爵は一つ息を吐くと、見下げ果てたように妻から手を離した。 「どれほどその名に値しない女だろうと、世間の目にはあくまでヴァラス子爵の妻だ。おまえの振る舞い如何で、わたしの対面も傷つく。そうしたければいくらでも、わ…
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金色の花びらが舞い散る下で⑬

「小父さんの国で跡目争いが起こって、十八のときに亡命してきたんだ。おじいさんの一番のお気に入りだったから、暗殺される危険があったみたい。・・・父さんはね、貧民街育ちの孤児でしょ?ほんとなら一生会う筈もなかったのに、何の因果だろうってよく笑ってる。僕が生まれるずっと前から悪友なんだ」  しかも五千の将兵を指揮下に置く軍団長で、数多の戦場…
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金色の花びらが舞い散る下で⑫

 窓の外でさわさわと、中庭の草木を揺らして風が鳴った。  自室に使っている離れの客間で、シギリヤはぼんやりと椅子に座ったまま、テーブルの上の鉢植えを見つめていた。春までまだ間があるというのに、蝶々を思わせる可憐な、黄色い花をこぼれるほどつけたエニシダ。質素な調度とひっそりした佇まいの中で、そこだけが灯りを点したように明るい。  まる…
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金色の花びらが舞い散る下で⑪

 紹介しようと振り返って、悪友の姿を探したときだ。シギリヤがきゃっと驚きの声をあげた。見ればザカリアの腕に抱き上げられ、呆然と碧の目を瞠っている。フードは背中に落ち、その麗しい面や黄銅色の髪が露わになっていた。険しい表情で立ち上がり、「何をするんです」と睨みつける小間使いを、ザカリアが無表情に見下ろす。「馬に乗せるだけだ、騒ぐな」  …
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金色の花びらが舞い散る下で⑩

 そこへ彼らのいる通りの奥から、バタバタと近づいてくる足音が聞こえ、十人あまりの屈強な男たちが角を曲がって現れた。一番最後におどおどと、さっきの小男がくっついている。他はいずれも目つきの鋭い、危険な雰囲気を漂わせる連中で、先頭に立つ四十がらみの男を除けば皆若かった。不敵な面構えをした、長身のその人物は若頭のグスタフ、むろん顔なじみだ。 …
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金色の花びらが舞い散る下で⑨

「おそらくタチの悪い貧血を起こしたんだな。少し横になれるといいんだが・・・」 「きっと心労が重なってらっしゃるせいだわ。夜もよくお休みになれないし、お食事だってろくに召し上がれないんだもの。無理ありません」  ジーナが口惜しそうに唇を噛む。奥さまが一体、どんな悪い事をしたと云うのか。これほど美しくて思いやり深い方の、旦那さまはどこが…
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金色の花びらが舞い散る下で⑧

「怖い思いをしたな、大丈夫か?」  軽く身を屈めて、小間使いの顔を覗き込む。何とも人懐こい笑顔、構えたところのない口調と魅力的な声だ。二十代半ばから後半に見えるが、男の子の父親という事であれば三十歳は過ぎているだろう。膝丈まである焦げ茶色の分厚い胴着をだらしなく着崩し、はだけた胸もとから中のシャツが覗いている。すらりと引き締まった脚に…
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金色の花びらが舞い散る下で⑦

「謹んでお断りするよ。たとえ世界中の女をくれるって、結構な条件つきでもだ」  すぐ耳もとで聞こえた声に、背後を振り向こうとしたときだ。その手をがぶっと噛まれて、男が悲鳴を上げた。喚き散らしながら腕を振ったが、男の子は食いついたまま放さない。口汚く罵って小さな頭を押しやるその喉もとへ、何者かの手が巻きついた。ぐいとのけ反らされた目に、に…
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金色の花びらが舞い散る下で⑥

 心臓が激しく脈打つのを感じながら、小間使いのジーナはまわりを取り囲む男たちを精一杯睨みつけた。どうすれば無事に、この場を切り抜けられるだろう?青ざめた顔で肩に凭れかかる女主人を、庇うように抱えて唇を噛む。奥さまは立っているのもやっとなのに、相手は五人・・・諦めてくれそうな気配などないうえ、じりじりと壁際へ追い詰められてしまった。いずれ…
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金色の花びらが舞い散る下で⑤

「金色の花びらが舞い散る下で、あなたは運命の確かな足音を聞く。己が目ではっきりと見る事になる。薄々その谺に気づきながら、決して振り返ろうとしなかった運命・・・身を灼き尽くす愛と、足もとから伸びる遠い修羅の道を。追いつかれたのではないわ、ザカリア。あなた自身が呼び寄せた。囚われるのでなく、両手につかみ取って放さない事よ。その二つこ…
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金色の花びらが舞い散る下で④

「奥さんの話は伝わってこないけど、もともと気持ちが通い合っていたとは思えないし・・・息子の死がすっかり夫婦仲をこじれさせたみたいだもの。いっそあなたがぶち壊してしまったら?そのつもりなんでしょ?」  鮮やかにカードを閃かせながら、にっこりと微笑む。タロットの絵が目にちらついて、嫌でも気を惹いた。はだけた胸もとを愛撫する女の手をどけ、ザ…
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金色の花びらが舞い散る下で③

「ヴァラス子爵だけど、郊外の家に女を囲ってるわよ」  密生した艶やかな睫毛を伏せ、物憂げにタロットをめくりながら、占い師のジブリールが云った。マニキュアを塗った形のいい爪が、カードを繰る指先をほっそりと見せている。その手つきはより優雅に。 「幼い一人息子が亡くなった晩も、実は妾宅にいたんですって。どうやらあまり、品性の高い女じゃない…
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金色の花びらが舞い散る下で②

「故郷のウィンダミアじゃ、雪なんか降らないんだろ?いつもながらよく、そんな薄着で平気なもんだ。とても南国育ちとは思えんね」  白い息を滲ませながら、傍らの偉丈夫に視線を移す。ザカリアは190センチを超える長身で、厚みも充分ながっしりした体躯を、リネンのシャツに袖なしの胴着という軽装に包み、その上からカシミヤの薄いマントをはおっていた。…
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金色の花びらが舞い散る下で①

 その凍えるように寒い冬の午後、アキテール市のサンクレディ墓地は、ちらちらと舞う粉雪の中で灰色の静けさに包まれていた。空を覆う雪雲にぼんやりと太陽の影が滲み、裸の木々は物言わぬ墓石の間で、刺すような風に枝を震わせている。デーモンとジョシュの親子、それにザカリアの三人は、墓地を出ようとして、埋葬のために訪れた二十人ほどの葬列と行き会った。…
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