テーマ:ファンタジー

マラメアの海賊・その112

 ザカリアは少年が、切れかかった静索を修理しようとメインマストに登り、一番高い帆桁から落ちたと説明した。そもそもその静索は、誰かの手で切れ目が入れてあったらしいこと、ヤードに繋ぐ金具も油まみれだったこと。調べるうちに今度は足場のロープが切れ、大波で揺れる船から海中へ落下したこと・・・。何とか途中で動索を掴んだものの、金具についていた…
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マラメアの海賊・その111

「荷物の中身は確認済みと云ったな。二人とも見たのか?」 「いや。カシムは身体検査にご執心だったし、覗こうとしたときもサィードが見せなかった」 「ふん、それで騒がしかったのか。サィードは理由を訊いたか?」 「そういう事かと云っただけで、すぐあなたに取り次いでくれたが?どうも彼は、わたしが再び現れると確信していたらしい」 「財宝を目…
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マラメアの海賊・その110

「ああ、これは関係ない。お袋の形見で、さらわれたとき身につけていたものだ。淫乱で身勝手な女だったが、家柄だけはよかった」  イヤリングを指先で弾いてキラキラと光らせ、元海賊の女は薄く微笑んだ。おそらく家柄だけではあるまい。ベリルの切れるような美貌を眺め、ガレリは思った。彼女に引き継がれたその容姿のせいで、母親はヴァザラックに見初められ…
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マラメアの海賊・その109

 その言葉にベリルは、遠慮なく楽しげな笑い声を響かせた。ベットを軽く軋ませて座り、身を乗り出しながら近々と船長の顔を覗き込む。 「まさかわたしが、あの坊やの女房に?・・・それはないな。まあアスールが望むなら、初めての女になるくらいは構わないが」 「ああ、止めておけ。アスールみたいな男に惚れたら、これでもかってくらい幸せにされるぞ。お…
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マラメアの海賊・その108

 ウィンダミアのディオル金貨ではない。刻まれた意匠や純度から見て、おそらく7~800年前にヘザヴィで鋳造されたものだ。希少価値も含めれば、ディオル金貨のほぼ二倍に相当するだろう。当時沈没した船団の残骸がラドローの沖合いで発見され、200枚以上の古代金貨が引き上げられたのは・・・一体何年前の事だったか?ヘザヴィへ輸送する船が途中で襲われ、…
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マラメアの海賊・その107

「船長に客です、通しても構いませんか」  入れという答えに、サィードが扉を開ける。ベリルの胸もとに荷物を押し付けると、彼は顎をしゃくって船長室の中へ通した。 「剣は預かっているし、荷物の中身も確認済みです。身体検査ならカシムが、執拗なまでにやりました。船長に何か話があるそうなので」  いかにも事務的な口調で伝え、おざなりに頭を下げ…
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マラメアの海賊・その106

「また会えたのは嬉しいが、一体どういう風の吹き回しだ?その重たそうな荷物は?アスールに話でもあるんだったら、ちょうど出かけて・・・」  なおもぺらぺら喋りそうな口へ、ベリルが指先をあてて黙らせた。その目を覗き込んで、うっすらと蟲惑的な笑みを浮かべる。 「ザカリア船長に話があって来た。アスールはいなくてもいい」 「・・・せ、船長に?…
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マラメアの海賊・その105

 その日の昼下がり、洗濯物の翻る下で甲板に寝転がっていたサィードは、タラップがギシギシと軋む音に片目を開けた。重たげな袋を担いで現れたのは、だが、用事で街に出かけている仲間の誰でもなかった。そのくせ何の気兼ねもない足取りで近づき、抜けるような青空を背に彼を見下ろす。細かく編んだ長い髪がはらりと肩から落ち、眩しい陽射しがダイヤのイヤリング…
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マラメアの海賊・その104

 大きな背中を窮屈そうに丸め、ポーチの床から一つ一つ、無事なグラスの中へ破片を拾い集めている。娼婦らも入り口から次々と顔を覗かせて、興味をそそられたように見やった。いかついが信頼できそうな、確かに見覚えのある横顔だ。 「あら、あの人・・・何度かうちの店に来た事があるわよね?遊んでは行かなかったみたいだけど」  露わな肩先や頬にかかる…
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マラメアの海賊・その103

「なあ、メドック。権力者にとって一人の命は、あくまでただの数字に過ぎない。最初から顔などないし、犠牲にしたところで、掃いて捨てるほど代わりがいる。だがベロニカの子どもたちにすれば、世界中にどれだけ人間がいようと、母親は彼女一人なんだ。別の顔と挿げ替えられるものじゃない。いつか他の女に惹かれるとしても・・・おまえにとって死んだ女房の面影や…
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愛だけが聞こえる(39)

 世間の噂などに縁のない公爵令嬢と違い、わたしは近所のおかみさんたちが家の戸口で、或いは仕事から帰った男連中が、通りへ出した椅子にかけて茶を飲みながら・・・あの家の女房はとうとう、亭主の留守中に間男を連れ込んだことがバレて大騒ぎになったの、年老いた父親の薬代がままならなくなって、可哀想にあそこの娘はごうつくな商人の囲い者になっただのと喋…
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マラメアの海賊・その102

「ああ、自慢の奥さんでね。子どもたちも誇りに思っている」  妻の話はしていない筈だが、デーモンは構わず、当然の賛辞とばかりにんまりした。 「医学の知識に関する限り、満足するって事を知らないんだ。それも頼ってくる患者の苦しみを、軽くしてやりたい一心からさ。治療にも研究にも骨身を惜しまない。大半の患者は女子どもなんだが、そういうわけで他…
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マラメアの海賊・その101

 デーモンは震えるような吐息を洩らした。それから手話で何事か尋ねたが、答えるヘススの手の動きときたら、稲妻が閃くかの凄まじい速さだ。読み取り切れず眉間に皺を寄せ、長官が慌てたように押し止める。滅多に見られない真剣な表情。 「もう少しゆっくり伝えてくれ、ヘスス。それじゃ何の事かわからない。いいか、ゆっ、くり、だ」  自分の手も一つ一つ…
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愛だけが聞こえる(38)

  「その話ならすでに説明した筈だ、聞いていなかったのかね?」  途端に苛立ちを声に滲ませ、公爵が素っ気なく答えた。聞く者の胸に居たたまれない思いと困惑を掻き立てずにいない、あのせかせかした叱責するような口調だ。それが令嬢に対しても向けられたことにびっくりし、思わず面を上げて表情を窺うと、やはり例の不機嫌そうな皺が眉間に寄っている。…
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マラメアの海賊・その100

「わたしはバド・キュレグの過去を、今度こそはっきりと見たのです、ブラッドショー長官。ただ一度近づいたときは、その影しか感じ取る事のできなかった・・・記憶の奥底に封じ込められて、正体を見極められずにいたもの。あの男の唯一の恐怖です」 「おいおい。まさかそれが、この俺だって云うんじゃあるまいな?仕事柄物騒な連中にも関わってきたが、そんな奴…
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愛だけが聞こえる(37)

  「ありがとうございます、お嬢さま」母も涙声で云った。 「お嬢さまはこの子に、一番必要なものを与えて下さいました。父親を亡くして以来、息子が泣いたのはこれが初めてなんです。夫から出がけにいつも、留守中は母さんを頼むと云われていて・・・アルフレッドはその約束を、大切に守ってきたものですから・・・。この子が聞いた最後の言葉でもあります…
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マラメアの海賊・その99

「ヘススの障害についてなら、およその見当はついてたよ。多少は知識があるんでね。対処し切れない状況に曝されて不安が昂じると、発作を起こす事があるそうだな?そんなときはおまえが云ったように、ある一定のリズムの音を聞かせると落ち着く。能力の暴走も謂わば、「対処し切れない状況」だからな。・・・それが障害の故だろうと、人は理解し難い行動に対して本…
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愛だけが聞こえる(36)

  「アルフレッド・・・アルフレッド?」  女の子のうろたえた、つられて泣き出す寸前の声が聞こえる。父がそこにいると信じて語りかけたときから、その目には涙が・・・産毛みたいな下睫毛のあたりに引っかかって、真珠のような涙の粒がぶら下がっていた。最後までちゃんとお別れを云うために、彼女は込み上げてくるものを、ときおり唇を噛み、何度も息を…
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マラメアの海賊・その98

   彼には未来の音しか聞こえないのに?何と云う難問を押し付けてくれるのだろうと、しばし眉間に拳をあてる。デーモンはそれから、何を思ったかシャツのボタンを外し始めた。胸もとをはだけると、ブルブル痙攣するヘススの手首を取り、硬直した指を一本一本開かせて肌に押し当てる。 「耳に聞こえなくても、手のひらで感じるだろう?・・・そう、心臓の鼓…
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愛だけが聞こえる(35)

   奇跡が起こらなかったからではない。彼女の青い瞳を覗き込んで、そこに自分の姿が、水面へ落ちた影のように映っているのを見たとき、父の笑顔が傍らにあったからだ。その大きな手が置かれる重みを、勇気づけるように握る指の力強さを左の肩に感じた。たとえそれが、わたしの裡にセシリアが見ていた面影の幻像や、何度となく同じように肩へ置かれた手の記憶…
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マラメアの海賊・その97

 同時に操っていた手話がふと、懸念を覚えたように止まる。ポーチの床へ座り込んだ先読みの全身が、彼の目の前で、雷に打たれたごとく硬直していたのだ。カッと見開いたまま瞬き一つしない瞳は、単に焦点が合わないばかりでない。覗き込むデーモンの姿、いや、現に存在するどんな事象も映していなかった。代わりに激しく瞬く無数の光が、秒速で現れては消えている…
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愛だけが聞こえる(34)

  「大切なお父さんを、あなたの息子から奪ってしまって・・・ひっく、ごめんなさい。わたし、ずっと謝りたかった。わたしの代わりにアルフレッドが、お父さんのいない淋しさを・・・が、我慢しなきゃいけないなんて、あんまりだもの。隊長だってきっと、小母さまやアルフレッドを悲しませたくなかったでしょう?だから今度は、わたしにお二人を守らせて。隊長…
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マラメアの海賊・その96

「いや、実にザカリア向きの奴だと思ってね。俺は勿論、謹んで辞退したいが。・・・もはや自分の知っている奥方ではない。何度言い聞かせたところで、容易く気持ちの切り替えがつかないか?大方おまえの敬愛の念に妨げられて、ヘススも事態を見誤ったんだろう。おかげで『赤い蠍』から、まんまと出し抜かれる羽目になった。・・・何事もいい面ばかりというわけには…
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愛だけが聞こえる(33)

「どうか・・・そんなふうに泣かないで、小母さま。わたしただ、ヒューバート隊長に最後のお別れを云いたかったの。人は亡くなったら、魂だけになるんでしょう?お葬式に参列できなくなったときね、隊長ならどこにいたいかしらって考えたの。きっと小母さまやアルフレッドの側よ。だからお願いしてもいい?お二人にも聞いて欲しいって・・・」  公爵令嬢の…
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マラメアの海賊・その95

 せっかく説明してやったのに、途中から興味を失くしたらしい。要らなくなった玩具のように彼の足を放すと、レモネードの匂いに惹かれたか、ヘススはポーチを過読みの傍らへ這っていった。 「気になさらないで下さい。ヘススは耳の他にも障害があるのです。少し変わっていますが、人に危害を加えたりはしません」  両手で包んだカップに口をつけ、ごくごく…
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愛だけが聞こえる(32)

 ヒューバート隊長もこんなふうに苦しかったかしら、やっぱり堪らなく怖かった?・・・発作が何とか治まった後、天蓋の落とす影の中に消耗しきって横たわり、セシリアは人知れず涙をこぼした。枕もとには父親が寝もやらず付き添っていたが、きつく握り合わせた拳へ額を押し当て、瞼を閉じたきり身じろぎ一つしない。ただ疲労の色濃い背中や乱れて落ちかかる半白の…
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マラメアの海賊・その94

 ふっと溜息をつき、売春宿を取り囲む野次馬が不穏にざわついている事に気づく。表口に到着した護送馬車に押し込むべく、捕縛された犯人らが店の中から引き立てられてきたのだ。拳を振り上げて口汚く罵り、石さえ投げつける野次馬の背中を見ながら、彼はぼんやりと頬杖をついた。阿片の密輸については以前から調査中だ。どんなルートで手に入れたか、厳しく締め上…
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愛だけが聞こえる(31)

 喘息という病気の原因ははっきりしないが、患者の喉は個人差こそあれ、常に炎症を起こした状態にあると考えられている。そのため気候や過度の運動、疲労、動物の毛、心理的な要因など、健康な者ならば何という事はない刺激であっても過敏反応を起こしてしまう。これが発作で、軽いものなら自然に落ち着く。しかし大きな発作の場合は・・・気道が塞がったことで呼…
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マラメアの海賊・その93

 弦をかき鳴らす手を止め、盲目の占い師は淡い吐息を洩らした。おそらくその奥方とやらに、敬愛の念でも抱いていたものだろう。竪琴を膝の上に横たえると、彼は手探りでレモネードの温かなカップを取り上げた。 「・・・悪霊が器を欲しがる事はご存知ですね?」 「さて、ご存知と云えるほどご存知かどうか。15の年まで魔女の押しかけ弟子をしていたし、う…
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愛だけが聞こえる(30)

 初めて見る父親の打ちひしがれた姿にどう声をかけていいかわからず、セシリアが小さな胸を痛めていると、背後から控えめなノックの音が聞こえた。現れたのは数人の小間使いで、それぞれ湯気の立つ陶器のポット、洗顔用のボウル、清潔なリネン類や着替えを手にしている。公爵は疲れた顔を上げ、令嬢の姿を認めて一瞬ハッとした女たちに、静かだが少しも動揺を感じ…
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